いすゞジェミニ街の遊撃手に捧ぐ

1983年の元旦から放映され、瞬く間にヒットCMになったいすゞジェミニの新TVCMシリーズ「街の遊撃手」。6年間に亘った撮影の裏側を紹介します。

ショーン・コネリー似のレミー・ジュリアン

ISUZUジェミニのダンシングシリーズCM14作と擬人化シリーズCM4作。
これら18作のCMが多くの人に賞賛され、長い年月を経ても話題のCMであり続け
られるのは、レミー・ジュリアン・アクションチームの卓越したテクニックと
カーアクション、および彼らの全面的な協力を抜きにしては語れません。

 

イメージ 1

 

レミー・ジュリアン・アクションチームは、「007シリーズ」や「フラン
ティック」(異国の地パリで突然消息を絶った妻の行方を捜すハリソン・
フォード主演のサスペンス映画)などカーアクションを必要とする映画には必ずと
いって良いほど出演していますが、彼らの本拠地、パリから南西約50Kmの
Cerny地区にあるファクトリーに行くと、007シリーズ「A  View  
to  A  Kill」でしたか、セーヌ河岸で2台のクルマが衝突し、片方が
真二つに割れるシーンで使われたクルマやその他の数々の映画で使われたクルマの
残骸などが所狭しと積み上げられており、まるで撮影スタジオの大道具置き場に
来たという感じでした。

 

このファクトリーは、軽飛行機などの離発着用の小さな空港の片隅にあり、広大な
敷地面積を有しています。
カースタントの練習を行なう必要があるので、このような場所に本拠地を構えて
いるのでしょうか。・・

 

イメージ 2

 

ところで、ジェミニCMのカーアクションですが、・・・・
レミーチームとの企画の進め方、撮影の進め方は、次のように行なわれました。

 

まずレミーにストーリーボード原案を説明し、それをさらに面白くするための
イデアを彼らが出演した007シリーズなどのカーアクションを参考にして出して
もらい再検討→ブラッシュアップします。なにしろ彼らはカーアクションの大御所
なので色々なアイデアを持っています。

 

次に、そのストーリーに沿ってパリ市内や郊外、時にはフランス全土を私たちが
ロケハンして回り候補地を選定。選び出された候補地を再度レミーと共に見て回って、
実際の撮影の際に助走距離を確保できるか、機材車を駐車しておく場所があるかなど
をチェックし最終的な撮影地が決められます。

 

撮影地の許可申請は、撮影場所の図面に撮影時期や方法を添えてパリ市に提出し、
特に問題がなければ許可されますが、世界的にも有名な名所での許可申請なので、
国賓の訪問や国家行事の予定が入っていることが多く、日程の調整にも苦労します。

 

この許可申請をしている間に、レミーのファクトリーではカーアクションを確実に
行なえるようにジェミニのシートや内張りなどの内装を取り外したり、ボディーや
サスペンション、エンジンマウントの強化を施したりします。
また、例えば所定の高さをジャンプするためにジェミニの場合だと発射台を何度に
すればよいか、助走距離○○メートルの際のジェミニの速度は時速何キロまで
伸びるかなど、実際にジェミニを使った検証や練習が繰り返されます。

 

このようにして撮影されジェミニCM。
レミー・ジュリアン・アクションチームのお陰で6年もの長きに亘り放映することが
出来ました。

 

イメージ 3


ところで、レミーのファクトリーがある空港内のレストランにランチに行くと、
地元の人達で大賑わいなのですが、ここで食べた「ウサギ肉の煮込みスープ」に
フランスパンの取り合わせ、それがたいそう美味だったことを今思い出しました。

幻のCM

ジェミニCMの「才なクルマ」シリーズは、2台のジェミニをそれぞれ男と女に擬人化したCMで、・・・
ジェミニが、カフェでお茶を飲んでいる女ジェミニに泥をはねてしまう所からシーンは始まり、
それをきっかけに、2人が親しくなる。(出会い篇)
2人でウィンドウショッピングを楽しむ。(ミラー篇)
レストランで食事をした後、映画を見に行く。(映画館篇)
二人でドライブしていたら渋滞にはまった。じゃあ、前のクルマを跳び越えて先頭に出よう。(渋滞エスケープ篇)
など、1991年に終了したシリーズです。


ところが実を言うと、もう1作撮影する予定のものがあり、ロケハンまで済ませていました。
そして、そのタイトルは「サーフィン篇」となる予定でした。

イメージ 1

シーンは、海辺で男ジェミニと女ジェミニがデートを楽しんでいるところからスタートです。
桟橋で、2台がクルクルとターンをした後、男ジェミニが海にザブンと飛び込み、サーフィンを始めます。
ジェミニは、大好きな男ジェミニがサーフィンを楽しんでいるところを砂浜で見つめます。
ひとしきりサーフィンを楽しんだ男ジェミニは、砂浜に上がってきて女ジェミニと抱き合います。

まあ・・・、海辺ではよくある光景ですが、サーフィン篇のストーリーはこんな予定でした。
そしてロケ地も、フランス北西部のシェルブール近郊、ドービル辺りに決定しており、男ジェミニが乗るサーフィンの作成(グラスファイバー製)も進んでいたのですが・・・・
ついに撮影されることはありませんでした。

写真は、セーヌ川を走る観光船で、サーフィン篇とは関係ありませんが、
サーフィン篇を説明する写真・・・例えば、男ジェミニが乗る予定だったサーフィンの写真などを紛失したので、
代わりにこの写真にしました。

ベルリンの壁、崩壊後に東へ・・・

イメージ 1

ジェミニTVCMの撮影では、「街の遊撃手」才なクルマ」シリーズのために1984年から1990年に架けて足掛け6年間、パリに幾度となく足を運ぶことになりましたが、この間にも世界は激変しており、最も記憶に残っていることは1989年11月のベルリンの壁、崩壊です。

当時ISUZUはOPEL車を販売していたこともあり、またジェミニ・イルムシャーのスティル撮影の用事があったりしたため、フランクフルトやシュトゥットガルトにこの時期数回出かけたことがありました。
また、ジェミニの撮影をしているフランスは西ドイツの隣国だったので、
自分が、東側諸国の自由化の歴史を至近距離で感じることができたことは良い思い出です。

できることならベルリンの壁を若者達が競って壊す様を今すぐにでも見たいと思いましたが、結局ベルリンに出かけることができたのは1991年の3月ですから、崩壊後約1年半後ということになります。
東西ドイツの合併はめでたいことだなと思っていましたが、イルムシャー社の人達は、「西側に来た多くの人達が未就労者なので犯罪も増えたし、あまりにも多くの人達なので受け皿が無く困っている。」という話をしていました。

この写真は、ブランデンブルグ門から旧東ベルリンに入って少し行ったところのビルに止まっていた東ドイツ製トラパントです。
東ベルリンに行ったときの印象は、どのビルも黒く汚くよごれているなあということでした。
トラパントは良く見かけるクルマでしたがどれもオンボロで、写真のこれは手入れが良い方です。

渋滞してると、ツイツイ跳び越えたくなるよ、ね。

ISUZUジェミニは、1985年にフルモデルチェンジを受け「街の遊撃手」として登場、
最初の年は新登場を強く意識したCMを3作放映しましたが、
ISUZU社内でも新型ジェミニに手ごたえを感じていたようで、「広告にもさらに力を入れよう! しかもテレビ
CMを中心にしよう!」ということになり、翌1986年正月から新シリーズのCMを放映。
ワルツ篇以降4年半に亘った14作をダンシングシリーズと称しています。

そして1990年3月、再びフルモデルチェンジを受けたジェミニは、「街の遊撃手ジェミニ」よりワンサイズ
大型化したため新しいキャッチコピーが必要になり、「才なクルマ」として登場することになりました。

イメージ 1


「才なクルマ ジェミニ」CMには全部で6本のシリーズがあり、ダンシングシリーズと同じくパリでの撮影、
カーアクションはレミー・ジュリアン・アクションチームが担当してくれていますが、
1991年末に放映された「渋滞エスケープ篇」に唯一アクロバティックなカーアクションがあります。
このアクションでジェミニは、渋滞で滞っているバス、トラック、乗用車の上を飛び越えて前に出ますが、ジェミニがギリギリのジャンプをしている様子を画像で見てください。

イメージ 2
イメージ 3
イメージ 4
イメージ 5
イメージ 6
イメージ 7
イメージ 8
イメージ 9
イメージ 10
イメージ 11
イメージ 12

必見! 決死の川ジャンプ。

放映期間:1989年6月~9月   撮影時期:1988年9月
使用楽曲:ボルサリーノのテーマ/クロード・ボラン
撮影場所:Pont Louis Philippe、lille、Place Jacobin(Le Man)

川を飛び越えるシーンは緊張感いっぱい。ホップ・ステップ・ジャンプ篇メイキングビデオ(6分10秒)



ホップ・ステップ・ジャンプ篇30秒CM、15秒CMもご覧ください。


ジェミニCMのカーアクションをワルツ篇からずっと担当してくれたレミー・ジュリアン・アクションチームが、
そのスタントテクニックをすべて結集して挑んだ作品が、このホップ・ステップ・ジャンプ篇ではないでしょうか。

まず、「ホップ」シーンのアクション。
撮影は、サン・ルイ島セーヌ川右岸の間に架かっているルイ・フィリップ橋で、2台のジェミニが交互に
飛び跳ねながら橋を渡るところからスタートです。
ジェミニをトビウオが跳ねているように見せるために、橋全体に3角形の跳び箱を2列に3個づつ設置する
作業に4時間。
橋の欄干の隙間から跳び箱が見えるので、欄干すべてに目隠しをすること1時間。
朝6時に集合しても撮影開始は午後です。
しかもノートルダム寺院に近いこともあり、クルマは混むし、見物客は多いしでリハーサルは滞り勝ち・・・。
赤信号でも安全の確認が出来れば平気で渡ろうとする人がこの国には多すぎます。
青信号になったので助走して1個目のジャンプ台へ進もうとすると見物客が横断してきます。
警察官を配置して事故の起こらないようにガードしていても、自分勝手の判断で飛び出す人がいるし。
今までの中で一番のピリピリムードでの撮影でしたが、なんとか撮影できました。

イメージ 1

次は、「ステップ」シーンのアクション。
撮影地は、パリから北へ約250km。ベルギーとの国境付近のリール市。
運河に船を浮かべ、岸からその船の上に一度跳んで、更に向こう岸までジャンプするという離れ業の撮影です。
ジェミニのCMでは過去にも危険を伴う撮影を幾度となく敢行してきましたが、このシーンの撮影が最も
デンジャラスな撮影であったことは間違いありません。
今まではどんなにアクロバティックな撮影であってもレミーチームには笑顔がありましたが、
この船ジャンプのシーンでは流石に緊張感が漂っていました。

まず、手前側の岸にジャンプ台を設置しますが、
発射角度は既にレミーチームのファクトリーで計算済みなのでそれに合わせて調整します。
しかし着地側である船の方がなかなか所定の位置に落ち着きません。
クルマと違って船は液体の上にいるので、なかなか位置決めが難しいのです。
とにかく命が懸かっているので、ここは時間を掛けてしっかり準備です。
また、このジャンプは2台のジェミニが1列で次々にジャンプするという技なので、
どれぐらいの間隔をあけて2台がジャンプ台から発進すれば衝突せずに船まで届くのか、念には念を入れての
テストの繰り返しです。
そして、向こう岸。
ジャンプの着地場所には、いつものダンボール箱。・・・約300個のダンボールが積まれました。
そして段ボール箱の下にはビニールシート。 
さあ、・・・・・・すべてが整いました。万が一の時のため潜水夫も船の周りの水中に待機。
緊張が走ります。

辺りが一瞬! 静かになった時、
発射台の手前約100mほどの所から全速力で2台のジェミニがスタートしました。
ガタン、ガッタンという音と共にジェミニが発射、船にいったん着地して・・・さらに向こう岸へ。
ドーンとか、ガッシャーーンという音。
ズル、ズル、ズル~という轟音でジェミニダンボールの中へ突入です。
全員、駆け寄りました。
ドライバーは無事のようです。
スタッフや見物客から拍手、拍手が沸き起こりました。
ジェミニのフロントがゆがみ、ガラスが割れましたがドライバーに怪我は無く無事撮影が終了。
本当にそばにいてハラハラしました。

イメージ 2

最後は、「ジャンプ」シーンのアクションです。
撮影は、ルマン24時間レースの車検場として有名なルマン市ジャコバン広場です。
広場中央に人工の池と噴水を作りました。
その噴水の水を切るようにして2台のジェミニが上下に重なってジャンプしてくるというものです。
ジャンプは2台のジェミニが上下でクロスするように跳ぶのですが、上空でジェミニ同士が衝突などしたら大変で、
これもステップシーンの撮影と同じような緊張感の中で準備とリハーサルが行われました。
特に問題は、ジャコバン広場が若干狭いため発射台までの助走距離をとれないことです。
で、広場の外の一般公道からスタートするという許可を申請し、なんとか助走は確保できそうです。
そして、スタート。・・・
ド、ド、ド、ド、ドッ。ピシッ!(水を切る音) ダ~~ッとダンボールへ。
上空の2台のジェミニがぶつかりそうなのがわかるでしょうか。
上側の赤いジェミニの発射速度が想定より低いままジャンプしたので高度も予定より低くなってしまい、下を飛ぶ青のジェミニとぶつかりそうになったとのことでした。
本当に危なかったです。

カースタントの醍醐味を満喫させてくれるホップ・ステップ・ジャンプ篇。ヒット作に加わったようです。

遊園地って、楽しいね・・・

放映期間:1989年1~5月    撮影時期:1987年10~11月
使用楽曲:回転木馬/グランツベルク
撮影場所:Bois de Boulogne

遊園地篇30秒CM、15秒CMをご覧ください。



パリでは、チュイルリー公園やアレクサンダー3世橋の袂やブローニュの森などに、
心地よい風が吹き始める6月や、クリスマスで街が活気付く12月頃になると移動式遊園地がお目見えし、
子供たちが楽しく遊ぶシーンが至るところで見られますが・・・、
この遊園地篇もそんな雰囲気をストーリーにした作品でした。

イメージ 1

まず、ブローニュの森に設営した遊具は、
大観覧車、ジェットコースター、ゴーカート、メリーゴーラウンド、遊覧機関車など、実際に移動遊園地として各地を巡回しているものをここまで運び込んでもらいました。
大掛かりなセットです。なので何日も掛けて撮影するわけには行きません。
またジェミニと一緒に遊ぶピエロや子供たちも仕込んであります。
でも、撮影の大半は夜間に行われたことや、人通りの少ない森の中での撮影だったこともあり、すべてのシーンを2日で撮り終わることができました。

イメージ 2

このような日程の撮影では、午後4時ごろの集合なので、
ルーブル美術館に絵画鑑賞に行く人や
早朝から遠くベルサイユ宮殿まで出かける人、
買い物に行く人、
部屋でリラックスする人など撮影スタッフも思い思いにオフタイムを過ごします。

またレミーチームにとっても久しぶりのゆったりしたスケジュールだったせいか、
2台のジェミニを楽しそうに遊んでいる風に操ってくれました。

なお、このダンシングシリーズは今まで実写を信条としていましたが、
この遊園地篇では初めて合成という手法を、
ジェミニが大観覧車の輪の中を飛びぬけるシーンにのみ採用しました。
本当に初めてですから・・・。

ジェミニが、情事を、昼下がりに・・

放映時期:1988年10~12月   撮影時期:1987年10~11月
使用楽曲:魅惑のワルツ/F・マルケッティ
撮影場所:Gare de Lyon, Place Victor, Place Felix Eboue

ファッシネーション篇30秒CM、15秒CMをご覧ください。



ファッシネーション篇プロモーションビデオ60秒をご覧ください。
リヨン駅正面での撮影だったので、合間を縫ってTGV(フランス新幹線)を見に行ったりしてました。
この60秒バージョンは、主にショールームでの放映でした。




ダンシングシリーズも足掛け丸3年を経過した10作目がこのファッシネーション篇です。
使用曲は、
G・クーパーとA・ヘップバーン主演の映画「昼下がりの情事」の主題曲に使われていた「魅惑のワルツ」。
第1作のワルツ篇と同じように2台のジェミニの中に「魅惑のワルツ」を流しながら、音楽に乗ってドライブ
してもらうやり方で撮影されました。

“艶めかしく”がテーマなので、クルマの色も大人っぽい濃い色の青と赤を選び、夕方を中心に撮影されました。
出だしはリヨン駅の階段を急ぎ足で駆け下りる紺色の男ジェミニを、赤の女ジェミニが追いかけるシーンから始まります。

二人、言い争う。・・ 
男が、弁解する。・・
それを女が、許す。・・・
でもどこか、ぎこちない。・・・・
元に戻ろうと努力する二人だが・・・など・・・、

付き合っている男と女にはよくあるゴチャゴチャ話?があって最終的には、2人が仲直りする。・・・
そんなストーリーになっています。

イメージ 1

仲直りし、シャンパン(噴水)を真ん中にして艶かしい夜を過ごす場所は、フェリックス・エブエという撮影場所でした。